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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1447号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所に差戻す。

理由

職権をもって調査するに、原判決は、控訴趣意第二点の判断において、被告人松岡庄一は、「前記の事実を良く知りながら本件不動産の占有者である被告人森川と共謀して擅に本件不動産につき自己に所有権移転登記をしたことを認め得るのであるから被告人松岡にも共謀による横領罪が成立するものといわねばならない」と判示している。しかしながら同第四点について判示するところと第一審判決の判示によれば、被告人松岡は、被告人森川に対する元金二万八千円の債権に基きその代物弁済として昭和二四年二月五日本件不動産の所有権移転登記を受けその所有権を取得したというのであるから代物弁済という民法上の原因によって本件不動産所有権を適法に取得したのであって、被告人森川の横領行為とは法律上別個独立の関係である。されば本件においてたとい被告人松岡が「前記の事実を良く知りながら」右所有権の移転登記を受けたとしても、これをもって直ちに横領の共犯と認めることはできないのである。原判決はこの点において刑法の解釈適用を誤った違法あるに帰する。

さらに原判決は、控訴趣意第四点の判断において、「被告人森川が……昭和二十三年九月六日右元金合計二万八千円の担保として本件不動産に二番抵当権の設定登記をしたことは明らかであるが、右二番抵当権設定登記は昭和二十四年二月四日抹消され被告人森川は本件不動産につき高橋潔のためにまたその占有を始めたのであるから被告人両名が本件不動産につき更に判示の如く所有権移転登記をした以上その所為はまた横領罪に該当するものというべく……」と判示している。しかしながら仮りに判示のように横領罪の成立を認むべきものとすれば、被告人森川において不動産所有権が高橋潔にあることを知りながら、被告人松岡のために二番抵当権を設定することは、それだけで横領罪が成立するものと認めなければならない。判示によれば、昭和二四年二月四日右二番抵当権登記は抹消されたというが、第一審判決の認定によれば、その翌日二月五日代物弁済により被告人松岡に所有権移転登記をしたというのであって、記録によれば、右二番抵当権登記の抹消は所有権移転登記の準備たるに過ぎなかったことを認めるに十分である。されば原判決がことさらに被告人森川が右二月四日一日だけ高橋潔のため本件不動産の占有を始めたという説明によって右所有権移転登記の時に横領罪が成立すると判断したことは、刑法の解釈を誤った違法があるに帰する。

以上の理由により、所論について一々判断することを省略し、刑訴四一一条一号により原判決を破棄し原審に差し戻すを相当とし同四一三条に則り裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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